史上最も成功した不法侵入 — 犯人はあなたの体内にいる – 04
Day 19. 事件は偶然始まった。 朝、Human Cがこんなことを言った。 「ああ、体が重い。ミトコンドリアの充電が切れたのかな。」 私はこの言葉を3回聞き直した。 意味がわからなかったからだ。 「ミトコンドリアって何?」 私は聞いた。 Human Cは答える代わりにスマートフォンを見た。 答えは30秒で出た。 「私たちの体の細胞の中にいるやつ。エネルギーを作るのにすごく大事な働きをしてる。でも、ずっと昔は独立した細菌の系統だったらしいよ。別の細胞と一緒に暮らすようになって、結局そのまま中に住みついたんだって。」 私はイチゴを見た。 イチゴは何も言わなかった。 だが今回は、私も何かがおかしいと感じた。 🔬 本部へ緊急照会 私はすぐに本部へ通信を入れた。 「本部。地球生命体の体内に、もともとは別の生命体だった存在が住んでいるとの情報です。確認を要請します。」 返答はすぐに来た。 あまりにもすぐに来た。 「それ、あなたの体内にもあります。」 沈黙。 私はもう一度聞いた。 「……私の体内にも?」 「はい。n族の生体も真核細胞ベースです。ミトコンドリアはあります。標準仕様です。」 私はイチゴを見下ろした。 イチゴも私を見上げていた。 私たちは二人とも、なぜか裏切られたような気分になった。 🏠 ルームメイトの身元調査 本部のアーカイブを調べた。 以下、調査結果。 入居時期:少なくとも10億年以上前。 本部の表現では「銀河標準で、ものすごく昔」。 身元:もともとは独立した細菌系統。はるか昔、別の細胞と内部共生関係を築き、最終的にその中に完全に住みついた。 本部のアーカイブでは、この出来事は次のように分類されていた。 「史上もっとも成功した不法侵入。」 現在の状態:今でも自分専用のDNAを持っている。 つまり、 10億年以上も一緒に暮らしているのに、まだ荷ほどきが終わっていない。 👩 家族関係も少し変だ ヒトのミトコンドリアDNAは、通常、母系を通じて受け継がれる。 さらに調べると、成熟したヒト精子のミトコンドリアからは、無傷のmtDNAが検出されなかったという研究報告もあった。 本部資料は、これを非常に簡潔にまとめていた。 父系mtDNAの継承: 事実上なし。 私は本部に聞いた。 「理由は?」 本部からの回答: 「説明すると長くなります。」 私はこの回答のほうが怖かった。...
Day 19.
事件は偶然始まった。
朝、Human Cがこんなことを言った。
「ああ、体が重い。ミトコンドリアの充電が切れたのかな。」
私はこの言葉を3回聞き直した。
意味がわからなかったからだ。
「ミトコンドリアって何?」
私は聞いた。
Human Cは答える代わりにスマートフォンを見た。
答えは30秒で出た。
「私たちの体の細胞の中にいるやつ。エネルギーを作るのにすごく大事な働きをしてる。でも、ずっと昔は独立した細菌の系統だったらしいよ。別の細胞と一緒に暮らすようになって、結局そのまま中に住みついたんだって。」
私はイチゴを見た。
イチゴは何も言わなかった。
だが今回は、私も何かがおかしいと感じた。
🔬 本部へ緊急照会
私はすぐに本部へ通信を入れた。
「本部。地球生命体の体内に、もともとは別の生命体だった存在が住んでいるとの情報です。確認を要請します。」
返答はすぐに来た。
あまりにもすぐに来た。
「それ、あなたの体内にもあります。」
沈黙。
私はもう一度聞いた。
「……私の体内にも?」
「はい。n族の生体も真核細胞ベースです。ミトコンドリアはあります。標準仕様です。」
私はイチゴを見下ろした。
イチゴも私を見上げていた。
私たちは二人とも、なぜか裏切られたような気分になった。
🏠 ルームメイトの身元調査
本部のアーカイブを調べた。
以下、調査結果。
入居時期:少なくとも10億年以上前。
本部の表現では「銀河標準で、ものすごく昔」。
身元:もともとは独立した細菌系統。はるか昔、別の細胞と内部共生関係を築き、最終的にその中に完全に住みついた。
本部のアーカイブでは、この出来事は次のように分類されていた。
現在の状態:今でも自分専用のDNAを持っている。
つまり、
10億年以上も一緒に暮らしているのに、まだ荷ほどきが終わっていない。
👩 家族関係も少し変だ
ヒトのミトコンドリアDNAは、通常、母系を通じて受け継がれる。
さらに調べると、成熟したヒト精子のミトコンドリアからは、無傷のmtDNAが検出されなかったという研究報告もあった。
本部資料は、これを非常に簡潔にまとめていた。
事実上なし。
私は本部に聞いた。
「理由は?」
本部からの回答:
「説明すると長くなります。」
私はこの回答のほうが怖かった。
🚪 怖い事実をひとつ
さらに調べてみると、このルームメイトは単に居候しているだけではなかった。
細胞が死に向かう過程には複雑なシグナル系が関わっているが、ミトコンドリアはその中で非常に重要な関門のひとつを担っていた。
つまり、ルームメイトに生死の決定権があるわけではない。
だが、とても重要な扉の鍵をひとつ持っている。
私は本部に聞いた。
「なぜ不法居住者に鍵を渡したんですか?」
本部からの回答:
「その存在は、不法居住者というより共同創業者に近いです。」
返す言葉がなかった。
🍓 イチゴの正体も判明した
調査中、もうひとつ知ってしまった。
植物細胞にはミトコンドリアだけでなく、葉緑体という、もうひとつの古い同居人がいる。
葉緑体もまた、はるか昔に独立して生きていた光合成細菌の系統との内部共生に由来すると考えられている。
つまり、
イチゴは今まで黙っていたのではない。
自分もルームメイトを抱えているくせに、私には何も言わなかったのだ。
私はイチゴをにらんだ。
イチゴは相変わらず何も言わなかった。
怪しい。
本日の特記事項
夕方、Human Cがまた言った。
「ああ、本当に疲れた。私のミトコンドリア、どこ行ったんだろ。」
私はもう、この言葉の意味を正確に理解している。
そして今度は、気づかないうちに自分までつぶやいていた。
「私も少し疲れた気がする。今日は私のルームメイトも仕事をサボっているのかもしれない。」
口にしてから、自分で驚いた。
本部に報告した。
本部からの回答:
「それ、地球人が言うやつです。」
私は11分間、返事をしなかった。
(2回目だ。)
作業仮説:
n族と地球生命体は、思っていたよりずっと近い存在なのかもしれない。
どちらも体内に、とてつもなく古いルームメイトを抱えている。そのルームメイトはエネルギー産生だけでなく、細胞の生存や死に関わる重要な過程にも深く関与している。
勧告:
本部がこれを「標準仕様」と平然と言った件について、少なくとも新人エージェントの教育課程には含めるよう強く提案する。
そして、イチゴに聞きたいことがもうひとつ増えた。
「お前、いったい他に何を隠してるんだ?」
— ZETA-7, End of Fourth Report. 🍓
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