Skip to content

DT 1990 PROをバランス化する

ベイヤーダイナミックのヘッドホン「DT 1990 PRO」(初代)の端子を改修し、バランス接続ができる4ピン仕...

otar3
Aug 20, 20261 min read

イヤーダイナミックのヘッドホン「DT 1990 PRO」(初代)の端子を改修し、バランス接続ができる4ピン仕様に改造してみました。一緒に使うケーブルも自作しました。

「DT 1990 PRO」は2016年に発売されたモデルで、私は2018年頃に購入しました。販売期間は8年におよび、2024年12月に後継モデル「DT 1990 PRO MKII」が登場しています。ベイヤーダイナミックのプロ用の上位モデルは、片出しケーブルの端子としてミニXLRを採用していますが、ハウジング内でグランドを統合した3ピン仕様なので、ケーブルも強制的にアンバンランス仕様となり、ケーブル交換といったお手軽な方法でバランス接続に対応させることはできません。

一方で、ミニXLRという汎用規格のパーツが使われているので、これを4ピン仕様に差し替えることが可能です。パーツの交換自体は比較的容易にできます。はんだ付けは必要ですが、オーディオケーブルを自作する程度のスキルで改造できると思います。

標準状態はミニXLR端子が3ピン仕様です ミニXLR端子を4ピン仕様に改造しました

以下の改造は自己責任です

カギになるのは「DT 1990 PRO」の左ハウジングに取り付けられているミニXLRの端子(オスの丸座)です。これを3ピン仕様から4ピン仕様に交換することで、バランス接続に対応できるようにします。パーツのサイズはどちらも同じなので、ハウジングに穴を開ける・広げるといった改造は不要です。

オス丸座の端子のメーカーは、ITTキャノン製に加え、念のためノイトリック製を用意しましたが、ITTキャノン製「M-XL-4-14」が正解の形状でした。色はブラックからシルバーに変わりますが、形は純正の端子とまったく同じです。

4ピンのミニXLR端子、上段2つがITTキャノン製、下段2つがノイトリック(REAN)製。右はフルサイズの4ピンオスXLR端子で、ITTキャノン製です。すべて千石電商でそろいました ハウジングに取り付ける4ピンオスのミニXLR端子、丸座タイプ。左が採用したITTキャノン製「M-XL-4-14」。右のノイトリック製は固定する方向が違い今回の目的には合わない形状でした 作業時はハンガーを外すと楽です。トルクスドライバーの6番です パッドなどを外した後、ハウジングにはまっているドライバーを取り出します。ひっくり返してトントンすれば出てきます 戻すときはこの突起を目印・起点にします

デフォルトの状態

「DT 1990 PRO」のドライバーは故障時に簡単に交換できるよう、基板のソケットにコネクタを挿し込む方式になっています。ドライバーにL用・R用の区別はありません。ドライバーに固定されている小さな緑色の基板には、ソケットが2つ用意されています。

デフォルト状態で、右ハウジングに搭載の右ドライバーでは、2つあるソケットのうち左側のソケットにコネクタが接続されていました。こちらは今回の作業では手を加えません。

今回の改造では手を加えない右ドライバー。左側のソケットが使われていました。コネクタの3極は「赤/白/–」(ホット/コールド/–)です

デフォルト状態の、左ハウジングの左ドライバーですが、ヘッドバンドを通して来たR側細線(2本)が、左側ソケットに挿し込まれていました。L・Rがまとめられた細線(3本、後にL側細線として利用)は、右側ソケットに挿し込まれていました。この細線はミニXLR端子の後ろ側と接続されています。

左ドライバーを取り出したところ。ヘッドバンドを経由してきたR側細線(青印)が左側ソケットに、3ピンミニXLR端子につながるL・R細線(3本)が右側ソケットに挿し込まれています

左ハウジング側を改造

バランス化で改造するのは、左ハウジング側です。まず、ハウジングに付いている丸座の3ピンミニXLR端子を外します。

グルーガンで固められているリングを外します。このパーツは流用します リングを外すと、丸座のミニXLR端子がするっと外れます ハウジングの穴。加工は不要です 左が標準搭載の3ピンミニXLR端子。右が交換するITTキャノン製の4ピンミニXLR端子。サイズは同じです

R側細線のコネクタを緑色基板のソケットから外し、コネクタ部分をカットして、フリーになった2本のケーブルを4ピンミニXLR端子(丸座)のR用ピンにはんだ付けします。赤がホット、白がコールド(グランド)でした。

次に左ドライバーを駆動するL側細線ですが、私はひとまず、右ドライバーと環境を揃えようと思い、ソケット接続方式を維持・流用することにしました。

L側細線は、「白\黒\赤」の3本のうち、デフォルトでは赤がRのホットとして使われていたので、この赤は使わないことにして、コネクタから圧着端子を抜いて絶縁しておきました(極小のマイナスドライバーなどでコネクタのストッパーを持ち上げると圧着端子を引き抜けます)。

赤を抜くと、コネクタの3極は左から「白/黒/–」(ホット/コールド/–)の状態です。これを緑色基板の「左側」ソケットに挿しました。無改造の右ドライバーと同じ状態です。

L側細線のコネクタではない側は、4ピンミニXLR端子のL用ピンに、白をホットとして、黒をコールドとしてはんだ付けしました。

丸座のミニXLR端子に計4本をはんだ付けしました。こういう配置で作業しないとハウジング内に戻せません。写真左がL側細線、ハウジングの穴を通っている右のがR側細線です ※注:写真左のL側細線は3本のうち赤と黒を使っていますが、最終的に白と黒を使いました バランス化改造における左ドライバーの状態。L側細線のコネクタの3極は、赤を抜いた「白/黒/–」(ホット/コールド/–)の状態にして、緑色基板の「左側」のソケットに挿しました

L側細線のコネクタは、デフォルトだった「左ドライバーの右側ソケット」のままでいいのかなと思いましたが、それだと左ドライバーが位相ズレを起こしました(ホットとコールドが入れ替わっている状態)。緑色基板の2つのソケット間の接続がイマイチ分からないのでうまく説明できないのですが(笑)、バランス化改造では緑色基板の上でグランドの統合(コールドの統合)をしないため、左右どちらのドライバーに対しても同じ左側のソケットを使い、同じ配線にする、という点だけはなんとなく理解できました。

いろいろ書いてきましたが、要するにどちらのドライバーも左側のソケットを使い、ソケットに挿すコネクタの3極も左がホット、中央がコールドで揃えました(無改造の右ドライバーと同じ)。そしてそれぞれのホット・コールド、計4本をミニXLR端子の後ろの4ピンにアサインしました。

ヘッドホンケーブル

ミニXLRの4ピンの1~4番は標準的なアサインにしたので、ヘッドホンケーブルも標準的な内容で製作しました。ケーブルはモガミの2893にしました。

モガミの2893。オヤイデで1m単位(297円/m)で買えます。2mを買って、1.5mにして使いました

ヘッドホンケーブルのうち、ヘッドホンに挿す側の4ピンミニXLRのメス端子ですが、こちらもITTキャノン製とノイトリック(REANブランド)製を用意してから選びました。ノイトリック製「RT4FC-B」がセミグロスブラックでヘッドホンのハウジングの色となんとなく親和性が高いと思い、こちらを採用しました。反対側の、ヘッドホンアンプに挿す側のフルサイズの4ピンXLRオス端子はITTキャノン製「B-XL-4-12C」です。

バランス出力をするヘッドホンアンプはRMEの「ADI-2 Pro AE」なので、以前買った6.3mm TRSプラグ×2本の変換ケーブル(オヤイデ製TRS-XLRF4 BC)も使います。

新たに制作したヘッドホンケーブル。4ピンミニXLRメス端子はノイトリック(REAN)製に、フルサイズの4ピンXLRオス端子はITTキャノン製にしました 6.3mm TRSプラグ×2本の変換ケーブル ADI-2 Pro AEのバランス接続

盛大な余談:ドライバーを新品に交換

このバランス化の作業でドライバーを“致命的に壊す”要素はあまりないのですが、私は勘違いでやらかしてしまい、作業の終盤でドライバーをまるごと交換するハメになりました。

国内で正規流通品の新品ドライバーを単品で入手できるのはさすがプロ用という感じでありがたいところではありますが、価格はペアで3万円ほど。「DT 1990 PRO」(初代)は現在の中古価格が5万前後ですから、中古の本体を用意するより安いとはいえ、なかなかの授業料です。参考になるかどうかは分かりませんが、注意喚起(?)として顛末を記録しておきます。

新品のドライバー単品を買うハメに…… 左が私の個体に搭載されていた2018年製のドライバー。右は新たに調達したドライバーで2023年製でした。ペンで書かれている数字は製造年のようです 刻印でもパーツの製造年月が分かります

上記にもありますが、前提として、ドライバーの交換作業自体は難しくありません。分解してドライバーをハウジングから取り外し、細線のコネクタを新しいドライバーのソケットに挿し直すだけです。

私がやらかしたミスは、取り除いてはいけない(極めて細い)線を取り去ってしまい、音がまったく出なくなったというものです。上記のバランス化の改造作業と直接的には関係がない部分です。

言い訳をさせてください。ドライバーの後ろ側にはゴムリングが接着されているのですが、この2018年製の個体は、ここに極細の線が巻き込まれて、ゴミのようにくっついていたのです。その後、改造作業の中で緑色基板を見ていると、ここにも極細の線がまとわりついているのを発見し……これをゴミと勘違いして取り除いたところ、音が出なくなりました。

肉眼では気づかないレベルの、髪の毛よりも細い線ですが、この緑色基板にはんだ付けされている細線は、ドライバー内部のボイスコイルから伸びている2本の「引き出し線」でした。

要するに「ドライバーを駆動するための線そのもの」で、ある意味で最も重要な線です。これを、それと気づかず取り去ってしまったことで、リカバリー不可能なレベルの断線になってしまったというわけです。

緑色基板のソケットの下にゴミのような極細線が見えても、むしり取ってはいけません……。かるく触れるぐらいでも切れると思いますので、緑色基板の周辺に触れる際には注意してください。

2018年製ドライバー。ゴムリングの接着部分に極細線がゴミとして付着しています 緑色基板にもなんか極細線が……ゴミ? ……ではありません。「下にある小さな穴」から「2本の線」が出てきているのです。ちなみにこの基板、ここに位置が固定されているだけで裏側に電気接点はありません ドライバー本体の表側です。極細線の正体は、ボイスコイルからの2本の引き出し線でした。ドライバーを駆動するための肝心要の線です

バランス化「DT 1990 PRO」の音

図らずも、ドライバーが2018年製から2023年製の新品に交換され、ケーブルも新たに製作したので、事実上ほとんどが新品ということになってしまい、いろいろ馴染ませるのに時間をかけました。

2011年に初めてバランス接続の音に触れて以来、概ね同じ感想なのですが、バランス化は低音域や高音域がどうといった音色の話というより、分離が非常に良くなり、音が整理される・正確になると感じます。個々の音の輪郭がハッキリとし、打楽器などは顕著に点音源化されタイトになるイメージで、全体にはベールを1枚剥いだような明るさも加わり、製品がグレードアップしたかのように感じます。

ベイヤーダイナミックのこの製品のように「プロの現場ではべつにバランス接続は使われていない」という状況はさておき、私は趣味の音楽鑑賞で使うわけですから、さらにポテンシャルを引き出したように感じられるバランス化カスタムは、すでにけっこう使い込み何か変化が欲しいなと思っているヘッドホンに対して格好の遊びの材料だと思えます。ひと手間かかりますし、自分好みの仕様で仕上げられたという、ささやかな満足感もあります。

「DT 1990 PRO」は、音が左右に大きく広がりつつも、奥行きはそれほどを感じさせない、左右に整列した空間表現がそもそもの特徴です。こうした傾向はバランス化の後でも変わりません。

その空間表現が業務的・分析的で疲れるかというと、そうではないのが「DT 1990 PRO」の面白いところです。何時間でも聴いていられる、聞き疲れしない鳴り方はバランス化の後もそのまま。しばらく聴いていると、ヘッドホンを着けていることを忘れる時があるほどです。バランス化で音が整理され、こうした自然と没頭できてしまう傾向はさらに深まったかもしれません。

もっとも、ここでいう没頭とは、「客席でステージの演奏を楽しむ姿」とは少し違うかもしれません。どちらかというと、制作現場の担当者の卓に飛び込み(?)、マスタリングの様子を追体験するイメージでしょうか。この「DT 1990 PRO」で聴いていると、「この音はそこに配置したんだ」「その音、こんなふうに埋め込むんだ」というように、作り手と対話しているかのような感覚に陥る時があります。制作現場向けの製品なのでさもありなんといったところですが、これもスタジオモニターヘッドホンを自宅で使う醍醐味なのだなと改めて思いました。

自作したヘッドホンケーブルですが、ヘッドホンがスタジオモニターということで、ケーブルもモガミの定番マイクケーブル(の小径版)という、“プロの現場”系で選んでみました。切り売りのメートル単価が安すぎて不安でしたが(笑)、結果には非常に満足しています。努めてフラットな傾向が基本で、機械的でない柔らかさもわずかにありつつ、黒子に徹しているようでもあり、絶妙な塩梅だと思えます。私はケーブルで変な脚色はしてほしくないので、このケーブルはうまくハマったといえそうです。

低音域は、このモガミのケーブルの傾向を反映してか、「DT 1990 PRO」のデフォルトのケーブルの少しふくよかに思えた感じが抑制されましたが、決して不足は感じず、あくまでソースに忠実という印象です。

低音域に限らず、ソースに過大に含まれていればちゃんと過大に聞こえますし、録音がどのような状態でも隠さず出し切る信頼感があり、プロのスタジオ向けケーブルの本懐を果たしていると感じます。

2893は定番の2534を細くしたバージョンです。耐久性が高く取り回しもしやすいのでヘッドホンケーブルなどに向いています

ヘッドホンにはさまざまな駆動方式が登場していますが、つながりが良く、ある意味では親しみすら感じるダイナミックドライバーの傾向や、持ち前の聞き疲れしない鳴らし方はそのままに、バランス化によって、驚くほどの分離感や音場を整理する力、力強い音像とシャープな輪郭が加わったと感じます。まだまだこの初代の「DT 1990 PRO」も楽しめそうです。

Did you enjoy this article?

Recommend it — Standard Reader surfaces well-loved writing to more readers across the network.

Across the AtmosphereDiscussions