日本・モンゴル民族博物館への長い道 〜TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』から読み解く〜「モンゴル帝国の美しき女性たち」展 その2(完)
行った、見た、もう一度回った! 展示内容編
この企画展、博物館ができて30周年記念の企画展となっている。但東町の民俗展示以外、モンゴル関係の資料展示について『天幕のジャードゥーガル』の二人の后、ソルコクタニ・ペキ(トルイの后)とドレゲネ(2代皇帝オゴタイの后)に着目した展示を行われている。
イスラム世界とモンゴル帝国
入館して展示エリアに足を踏み入れると復元された投石器以外にイランのニージャプールで作られたラスター彩花文鉢(独特の金属的な光沢が特徴の焼き物。当時ニージャプールはこのような焼き物を生み出していた場所でもあった)が展示されていてシタラたちイスラム世界との接点を示している。学問の都としても人が集まっており、作中ムハンマドが学問を志して遊学に向かった地でもあった(このような陶磁器の歴史については愛知県陶磁美術館が世界的な流れを踏まえた展示をされていて、その中で中世イランで栄えた陶磁器についてもふれているのでお近くの方にはお勧めします)。
またその隣にはシタラも使っていたような書見台やモンゴル秘史(いくつかあるモンゴル帝国史について編纂された本の一つ)のトルイの死について触れられたページが開かれて展示されていた。
世界を席巻したモンゴル帝国
今回の展示、『天幕のジャードゥーガル』を踏まえて描かれたものと、その先、フビライのような少し時代が下った帝国がまだまだ強かった時代の人々について触れている。
世界地図を用いた説明パネルも多い。モンゴル高原から西へ、東へ、皇帝のものとしてのみこもうとする帝国の膨張について示すために必然的に世界地図の多用につながる。また数代の皇帝らの施政下の中で欧州まで乱遊し日本にも侵攻軍を送り込んだその激しさを示すには世界地図で示すしかない凄まじさがあった。
イスラム世界で亡くなった母親が奴隷であり、その娘ゆえに奴隷商に売られ、そしてファティマ(ムハンマドの母)のもとへたどり着いたシタラ。彼女の運命はイラン東部で繁栄していたトゥースが属していたホラズム王国がチンギス・ハーンが派遣した交易施設をほぼ全員虐殺したオトラル事件に対する報復として起きたが、この件は原作でも今回の企画展でも触れていない。モンゴル帝国の交易施設をスパイと断じて虐殺したホラズム王国側の人物はモンゴル帝国軍の捕虜となったが、報復として処刑されることになり見せしめなのか残虐な殺され方をしている。
青銅から鉄の時代へ 余談としての”THE ODYSSEY”
紀元前青銅器の時代の展示もされてるのですが、これはどちらかというとクリストファー・ノーラン監督が叙事詩の古典を映像化した『オデュッセイア』と密接。青銅器の時代が鉄器によって断ち切られ圧倒していく時代において、ゼウスの法を踏みにじる「木馬」作戦を思いついてやってしまった事への悔悟が帰れない人、責任に押しつぶされた人の物語として展開されている。
なお鉄器となっていった事で矢の鏃や馬具など様々な金属部品に使われていく事になる。加えて鐙ができて騎兵が馬を走らせながら弓を射るという機動戦を展開できるようになった。モンゴル帝国は消耗品となる矢を大量に生産して兵士が携えて戦っていて10進法単位でピラミッド組織を構成した軍事・行政単位と規律、圧倒的な鉄の確保能力と幼少期から親しむ乗馬能力を駆使して世界を席巻した。
この辺りの話は考古学、遺跡発掘の立場からモンゴル帝国を含む遊牧民族の歴史を追っている白石典之先生の著書に詳しいのでお勧めです。
『遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年』白石典之 https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-1997726
モンゴルにおける民俗資料 『天幕のジャードゥーガル』のディティール
この博物館の目玉展示の一つはゲルの実物展示だろうと思う。シタラが着目した明かり取りになっている天頂部や日常生活に必要なストーブやベッドなど整然と置かれているのが目を引く。そしてゲルの屋根部の上には餅みたいなものが置かれているが、これはアーロールというそうで、成形して乾燥させて保存するチーズとの事(という説明を見つけられなかったので帰ってから調べた)。
展示の中に奇妙な鉄の棒があって既視感があるぞと思ったら馬の焼き印だった。『天幕のジャードゥーガル』でシタラが拾ったことで後にその焼き印が突破口になる。
馬頭琴(モリン・ホール/Morin khuur)の展示も充実していた。『天幕のジャードゥーガル』アニメ版でアニメーションスタッフの強い希望で描写が入れられているが、当時モンゴル高原では指で鳴らすような弦楽器が主流で弓を用いる馬頭琴は広がってはいなかったらしいと見られている点を説明パネルで紹介されていた。この件は『もっと!天幕のジャードゥーガル』著者の谷川春香さんがあとがきでのアニメ版考証として検証してどうなったかについて触れているところで書かれているところである。
モンゴル帝国に大きな影響を与えたソルコクタニ・ペキ后とドレゲネ后
個人的に誰か着ているところを見てみたかったのは大カーン・大カトゥンの玉座とソルコクタニ・ペキ后とドレゲネ后の服装を体験できるコーナーだろう。2人の子供は皇帝となって西へ、東へ世界の歴史に多大な影響を与えた。権力掌握に全力を尽くし願いを叶えて亡くなったドレゲネ后、そんなドレゲネ后の血筋の皇帝たちから帝位を継承したフビライ・ハーンらを育てたソルコクタニ・ペキ后。初代皇帝の後を受け継いでいった皇帝たちを生み育てた二人の后の事績は『天幕のジャードゥーガル』で描かれる帝国の歴史であり2人のパーソナルな戦いをもとにした物語でもある。
余談。筆者は缶バッチ1つずつ買い求めました。まあ記念だしどちらの后も何か持っているキャラクターだと思うから。ドレゲネ后なんか苦手な部類ですが、原作にあり、それを見事にエンハンスしたアニメ版におけるあの「グルクちゃん!!!」では全て納得してしまったというしかない。
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